5代目レガシィツーリングワゴン評(乗り換えに際して)

 

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2011年式 レガシィツーリングワゴン(BR9)B-SPORT。

 

 昨年三男が誕生し、5人家族となった我が家にとって、スライドドア付き3列シート車の導入は避けられない課題であった。

 現在乗っているのは、スバル・レガシィツーリングワゴン(5代目)。自分にとっては人生初のマイカーである。国内ではもっぱら駄作だの不細工だの言われている車だ。しかし決して運転が上手くはないと自認する自分が、子供が産まれたことで必要に迫られて初めて購入するマイカーに於いては「安全であること」「ファミリーカーとしてそこそこの広さがあること」「そこそこ安い中古価格で入手できること」といったあたりを重視しており、2016年当時、中古でも信頼性の高い衝突被害軽減ブレーキを搭載している車といえばスバル一択であり、なおかつベビーカーやキャンプ道具を積んでストレスの無い広さを持つ車といえばレガシィツーリングワゴンレガシィアウトバックしか無い…という消極的な絞り込みで購入した車であった。

 レガシィツーリングワゴンは、見た目の不細工さ(特にフロントの顔!)とイマイチ伸びない燃費、という2点を除いては満足の行く車だった。

 

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大きいラゲッジルームにベビーカーやら豆イスやらの荷物を満載しての帰省。買う時はXVと迷いましたがレガシィにしといてよかった。

 

 それまでレンタカーの軽自動車かコンパクトカーくらいしか運転したことのなかった自分にとっては、「ターボじゃないレガシィなんて…」と言われるノンターボ2.5リッターエンジンの産み出すパワーでも、必要以上に十分なものだった。

 雪の日の子どもたちの送り迎えでも、凍りついた坂道でホイルスピンしているFF車を横目に4WDのレガシィはぐいぐいと不安なく坂上まで連れて行ってくれた。

 運転の楽しさも、もちろんスポーティかと言われればそうではないのだが、実家の軽自動車やコンパクトカーなんかの、まるで電気で動くオモチャのような運転感覚に比べれば、はるかにしっとりと重厚で心地よいものだった。

 巷で悪口を言われがちなCVTも運転初心者の自分には気を使う部分もなく至って扱いやすく、広いラゲッジルームは衣類や食料に加えてベビーカーや子供用の椅子を積み込んで帰省することも可能にしてくれた。

 4代目までに比べてデブって格好悪くなったと評判の5代目だが、ネット上の試乗記の多くに書かれているように、そのプロポーションと引き換えに後席の広さには余裕があり、チャイルドシートを横に2つ並べた上でさらにもう一人、大人を後席に座らせて移動することもできた。

 自動追従機能を持つアイサイト2.0は高速道路での運転に於いて抜群の使い勝手を発揮した。追い越しなど考えなければペダルワークはほぼアイサイト任せで良く、もはや実質自動運転なのでは? と思えるほどに便利な装備であった。お恥ずかしながら自動ブレーキでヒヤリとするシーンを救われたこともある。

 総じて実用的で、運転もまあまあ楽しくて、安全でいい車だったのだ。

 しかしそんなレガシィツーリングワゴンを愛せたかと言われると、やや躊躇わざるを得ない。

 

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なぜヘッドライトをこんなにやる気溢れる巨大な目にしてしまったのか。

 

 この車、お尻から側面にかけての見た目は、落ち着いた重厚感もありながら、ほどほどのスポーティさがミックスされた、決してヤンチャすぎない大人っぽい雰囲気をまとっていると思う。

 しかしフロントマスクを見るとこれでもか!と巨大すぎる吊り目のヘッドライトがこちらを睨めつけており、そのアンバランス感たるやまるでザクレロの如きである。「スバルの前身である中島飛行機の血統を表すべく翼をモチーフにした」との触れ込みの銀メッキグリルの意匠はなんとも男児向け玩具のようでもあり、急にフロントだけヤンチャな雰囲気になっていて、なんというか車全体の世界観がチグハグな印象なのだ。

 車内の内装も、どうにも落ち着きが悪い。ハンドルは革で覆われているしシートは10ウェイ電動式と充実している一方で、最も目立つセンターコンソールはどデカいプラスチックで覆われていて安っぽい……のだが、プラスチック全体が磨かれた金属のようなテクスチャとシルバーの塗料で加飾されていて、なんとか高級な方向に盛っていこうとしているかのようである。かと思えばスポーティな雰囲気のカーボン模様が印刷された樹脂パネルが所々に施されてたりもしている。

 なんというか、素材も加工も世界観がなんだかバラバラなのである。

 

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尻からサイドにかけての見た目は大人のツーリングワゴンっぽい感じがあって、悪くはないと思うんですよね。

 

 これがまたプロボックスみたいに実用一点張り、それ以外は後回しで!みたいな姿勢だと筋が通っていてそれはそれで味にも思えるのだが、実用性も安全性もそこそこの高級感も良心的価格に抑えることも、あらゆることを全部がんばっちゃった結果、総合的には良い車なんだけどキャラがイマイチ立ってない人、みたいになっちゃったように思える。真面目で優しくて仕事もできていい人だし、ファッションもそれなりに気を使ってはいるんだけど、な〜んか惹かれないのよね…みたいな。

 なんでしょうね、車を作る側が乗る人のことをすごく考えてくれて、乗る人のためにあらゆる努力をしてくれているんだけども、乗る人のことを大事にしすぎた結果、作ってるそのひと本人の「俺の考える車の理想像はこうなんだ」という気持ちとか美学とかが置き去りになっちゃって、結果として「いい車なんだけど世界観が良くわからない」車になっちゃったんじゃないかしら、などと勝手な感想を抱くのである。

 いや、実際乗ればほぼ不満の無い、使い勝手のいい車なんですよ。ほんと。

 でも悲しいかな、モノを好きになる時って、作り手の姿勢とか美学とか、そういうものに触れて惚れるんじゃないかしらと思う。5代目レガシィ、とっても真面目で使えて価格も良心的な車なんだけども、どうにも作り手の姿形がボンヤリしている。

 いや、ボンヤリはしていないな。従来よりも広い室内空間を確保しながらも、大きすぎて困るというところまではいかないギリギリのサイズ設定。価格を抑えつつも精一杯高級感も担保しつつ、燃費も向上させながら従来のスポーティさも完全には捨てきらないその姿勢。たぶん自分の好みや美学は脇に置いて、ものすごく真剣に、既存のお客さんにも新規のお客さんにも喜んでいただけるものを…と、全方位に向けて涙ぐましい努力をしたであろう開発陣の姿が脳裏に浮かんでくる。それは「貴方はいつも私の意見ばっかり聞いて、貴方自身はどうしたいのかちゃんと言ってよ!」みたいなことを言われる可哀相な男の姿とも重なるのだが……(ひどい)。

 でも大丈夫、そんな生真面目で自分のエゴを押し出せない姿を愛してくれる人も、少なからず居るはずだから。気のせいか二代目レヴォーグにも似た哀愁を感じるけども。

 

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みなさんおっしゃいますが、家族連れでロングドライブにはうってつけの車だと思いますよ。

 

 とまあ特別愛しているわけでもないが買い換えるほどの不満もなかったレガシィツーリングワゴンなのだが、話を冒頭に戻すと、家族が5人ともなってくるとさすがに手狭になってくる。

 出先で大量の荷物を積んだベビーカーを押しながら片手に三男を抱えつつもう片方の手でウロチョロする次男を捕まえ、ヒンジドアを開けてチャイルドシートに子供らをなんとか押し込み、ベビーカーを畳んでラゲッジによっこらせっと…などとやっていると、自動スライドドア3列シートの魅力には抗えないことは必至で、ついにミニバンの購入を検討しはじめた次第。

 が、欲しいミニバンがあまり無い。

 根が文化系の根暗キャラであり、やさしくて可愛いものが好きな自分にとって、自らの力を誇示するかのごときトヨタ系ミニバンの造形はどうやっても好きになれず(この点は5代目レガシィの造形も大概だが)、日産セレナも現行の5代目ステップワゴンも同様の理由でもうひとつ欲しいとは思えず、残るは6代目ステップワゴンAirか、フォルクスワーゲンのシャランか…と悩んでいる今日このごろなのであった。

 

 ※他人の自動車購入に至る日記などを読むのが割と好きなので、自分も書いてみました。